特集

Vol.01 東作州地歌舞伎保存協議会

東作州の地歌舞伎
江戸時代初期の「出雲阿国(いずものおくに)」の「かぶき踊り」に始まると言われ、 時代とともに現在のような形と内容に進化してきた歌舞伎は、幕末以降、日本中で大流行しました。
各地の農村でも若者たちが見よう見まねで歌舞伎を始めましたが、このような農村歌舞伎は 地歌舞伎(じかぶき)または地下芝居(じげしばい)と呼ばれ、昭和初期にかけて流行しました。
東作州の地域でも各地の神社に建てられた歌舞伎舞台で歌舞伎の上演が行われていましたが、 戦後の高度経済成長の時代に、担い手となる若者が都会に出てしまったり、 テレビなど新しい娯楽が生活の中に入ってくるにしたがって、多くの地歌舞伎・地下芝居が姿を消していきました。

そんな中、奈義町の「横仙(よこぜん)歌舞伎保存会」、同じく奈義町の「松神会(まつがみかい)」、 美作市(旧作東町)の「粟井春日(あわいかすが)歌舞伎保存会」、同じく美作市(旧勝田町)の「美作市勝田歌舞伎保存会」の四団体が 現在でも活動を続けていますが、いずれも人材の確保と後継者の育成が大きな課題となっています。
そこで昨年6月、県の呼びかけにより、これらの4団体と奈義町・美作市・美作県民局によって、 各地の保存会が互いに協力しあって人材の育成や技芸の向上をはかり、全体で地域の地歌舞伎を底上げしていくことを目的として、 「東作州地歌舞伎保存協議会」が結成されました。
東作州地歌舞伎保存協議会の取り組み
そしてこの協議会の取り組みの一環として、昨年度「プロに学ぶ歌舞伎講座」が開催されました。 役者講座/6回、鳴物(なりもの)講座、衣裳・化粧講座、床山(とこやま)講座、義太夫講座/各1回 といった、 歌舞伎にかかわるさまざまな技芸を上方歌舞伎各界のプロに基礎から学べる機会とあって、各地の保存会会員をはじめ、 これまでまったく歌舞伎に携わったことのない一般参加者も加わり、 全講座でのべ220人(実人員92人・うち一般参加者40人)もの受講者が参加しています。
中でも役者講座では単に体験講座というだけでなく、実際に「横仙歌舞伎四季の公演・冬」で上演することを目標に、 各地区保存会のメンバーによる「絵本大功記十段目・尼崎閑居の場」と、 初心者による「白浪五人男(弁天娘女男白浪・稲瀬川勢揃いの場)」の練習が行なわれ、 去る3月3日に奈義町文化センターでその成果が発表されました。
「白浪五人男」には、奈義町地域おこし協力隊の桑田さんをはじめ、地域の各地から集まった一般参加者が出演しましたが、 中でも、昨年の東北大震災の影響で美作市内に移住したのをきっかけに、美作地方の地歌舞伎をぜひ体験したいと講座に参加し、 「南郷力丸」を演じた小松崎さんは、生まれて初めての舞台とは思えない名演を披露されました。
(小松崎さんはこの公演のあと間もなく県外に引っ越され、 残念ながら最初で最後の東作州地歌舞伎への参加となりました。)
「大功記十段目」には保存協議会の構成各団体のメンバーが集結。松竹(株)の演出家、水口一夫氏の指導のもと、 先生の指導や各会それぞれのスタイルの違いを話し合ったり、プロならではの演出に新たな発見を得ながら練習を重ねていました。
実はこのような合同公演は史上初の試みだったとのことですが、当日は出演者全員がさすがの名演技を披露。満場の観客に深い感動を与えました。
連携と活性化にむけて
また、去る4月29日には奈義町中島東にある県指定の重要文化財、松神神社歌舞伎舞台で、 「横仙歌舞伎四季の公演・春」として、子ども歌舞伎教室による「寿式三番叟」、松神会による「白浪五人男」、 「良弁杉由来」が上演されました。
まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような空間で、出演者と客席とが一体となった地下芝居ならではの素晴らしい公演でしたが、 ここでも舞台の運営などに、協議会の活動をきっかけとしたさまざまな協力の様子が垣間みられました。
こういった協議会の結成がすぐさま各地の団体の活性化につながるとは言えないのかもしれませんが、 これらの公演の舞台裏からは、少しずつ、しかし着実に、保存と継承に向けた交流と人材育成の動きが進んでいることが感じられました。 協議会では今年度も「プロに学ぶ歌舞伎講座」の実施を計画しています。
kNOTでは重要な地域の文化資源として、これからも協議会の活動の展開に注目していきます。
COMMENT
「それぞれの地域コミュニティ活性化の機会にもなると思います」
岡山県美作県民局協働推進室 藤原隆昭さん
人材確保・後継者育成は多くの伝統文化保存団体で共通の課題です。
そのためには体験講座やワークショップのような気軽に参加できるかたちも有効だと思いますが、個別の取り組みはなかなか難しいところです。
その点で、東作州地歌舞伎保存協議会では団体の垣根を超えた場を新たに作り、合同で取り組みを行うことによってそういう機会づくりができたのではないかと思います。
また人材の確保だけでなく、協議会ができたことでそれぞれの団体においても一緒に取り組む方向に意識が変化してきているとの感想もいただいています。
今年度も指導者育成講座や初心者向けのワークショップなどを計画していますので、さらに新たな人材を確保し育成していく取り組みを継続していきます。
もちろん、すべての参加者が役者やスタッフとして残るとは限りませんが、少なくとも関心をもっていただく機会にはなりますから、 例えば観客としてなど、何らかの形で関わりを持ち続けてもらえれば、伝統文化の保全をさまざまな面で底上げしていくことができると思います。
またひいてはそれが伝統文化の保全に取り組むそれぞれの地域のコミュニティにもいい刺激を与え、活性化をもたらす機会にもなると思います。
COMMENT
「指導者の育成につなげていきたいですね」
奈義町教育委員会生涯学習課 寺坂信也さん
(協議会事務局)
伝統文化の保全を目的とした県のモデル事業として取り組んでいて、 「プロに学ぶ歌舞伎講座」もその具体的な取り組みとして実施したものです。
みんな先輩から技術を継承してきてますし、もちろんそれが大事なことなんですが、 一度プロから学んで勉強してみる機会を作って、自分たちのスタイルは大切にしながら、学べるところはどんどん学んでいったら、 自信を持って後進の指導にあたれるんじゃないかということ、 それと、プロに学べるんなら参加してみようかという人があらわれるんじゃないかという期待もあって取り組みました。
保存協議会の取り組みには三つの柱があって、ひとつはこうしたプロに学べる機会作り、もうひとつは情報発信、そして衣裳など物を整備することですが、 今後は特にプロに学ぶ講座をきっかけとした、指導者の育成を目指したいと考えています。
どこの会も、特に人材不足という問題を抱えていますが、各団体が自立性を保ちながらお互いに技術や人材を共有できるようにできたらいいと思います。
またいずれは東作州各地の、今は途絶えた活動が再び勃興するようなきっかけにもなれば、素晴らしいことだと思います。
※東作州地歌舞伎保存協議会の取り組みについては同協議会のホームページ
http://www.town.nagi.okayama.jp/cms-sypher/higasisakushu/index.html
で詳しく紹介されています。

美作人インタビューリンク