中島 麦 wandering~色・時・旅、記憶の記録~

9/1(土)〜9/23(日)

結果的に人を幸せにするものであるべきだと思っています。
奈義町現代美術館では、9月23日(日)までの会期で、 「中島 麦 展 Wandering~~色・時・旅、記憶の記録~ 」が開催されています。 中島さんは1978年生れで、京都市立芸術大学美術学部を卒業、現在は大阪府在住で、 専門学校教員として学生の指導にあたるとともに、美術家として、多方面で活躍しています。 抽象的であり、同時に具象的でもある独特の画面構成は、時には奔流のようなスピードを、時には静寂を、 時には息づく生命の躍動を感じさせ、心の中でどこか懐かしい風景へとつながっていきます。 今回の展示では美術館の壁面を大小の作品が埋め尽くしていて、 作家の制作の=心の軌跡を見渡しているような感覚を覚えます。

 

中島さんにお話を伺いました。

 


〜作品を拝見した印象では、平面的な塗りの部分と、絵具が垂れているところ、 それから筆の跡がはっきりわかるところ、など画面内でいろいろな要素の対比があって楽しい雰囲気の作品が多いな、と感じました。 それがこれだけ展示してあると、それぞれの作品ごとの対比と、作品同士の対比が、 いわばリズミカルで、より楽しめる空間が作られていますね。


今回は、過去5年くらいの間に作った作品の中から、ある程度展示プランを立て、 残りは現場であわせていこうと、かなりの数の作品を持ってきて、 実際に作品同士の関係等を見て細部の調整などしながら展示しました。


〜奈義町現代美術館でこのように壁面を埋めていくような展示がなされているのは、 私は初めてみたような気がします。


自分でいうのも何ですが、どこにもない、そして自分が見てみたい展示計画にしようと思っていました。 これまで十年あまり作家活動を続けてきて、まだまだ回顧するような実績があるわけではないので、 これまでの自分の作品を再構成して展示するという方針で展示プランを立てました。


〜自分でその間の作品を見渡してみるという作業はどのようなものでしたか


展示プランを立てる過程で思ったのですが、作家として、自分ではあまり作品を客観視できない部分がありましたね。 プランについて友人や美術関係者の客観的な意見をもらって、それを自分で考えてみて、投げ返して、という作業を何度も繰り返しました。 それでだいたい、7割がたは決まってきまして、あとは現場で展示する中でいろいろなずれが生じてくるだろうから、 少しゆとりを持って現場であわせようということにしました。


〜客観的な中島麦像をそういうやりとりの中で作り直してみた、ということですか。


何を見せたいのか、とか、どうしても自分自身の中で、気に入ってる作品とか気になる作品とか、作品に順番がついているんですね。 そういう主観的な部分をできるだけ取り払ってみる、ということを今回初めて試してみました。 その過程の中で、自分が何を大事に制作してきたのか、というようなことをあらためて感じさせられました。 タイトルの「Wandering」、つまり「歩き回る・さすらう」という言葉で表しているのは、 今まで、よくも悪くもどんどん作品を作って、時には道に迷い、つまずきながら前に進んできたのが自分自身でないか、ということです。


〜それを一度振り返ってみる機会として今回の展示を考えたんですか


そうですね、自分自身が作ってきたものを一度消化し直してみようと。


〜それを自分だけでなく、ほかの人の意見など客観的な視点を取り入れながらやってみたんですね


本当ならそこを自分で全部できたらいいんでしょうけど、 自分だけで考えてみるのはまだ少しきびしかったので、そのような形で見直してみました。 今までの新作の個展などに比べると、自分自身を、何というか、練ってみる機会になりました。 個人的な話にはなりますが、今後のために今の自分自身の位置を知るいい機会にもなりました。


〜見る側からしても、そのように組み立てられた展示を見て、何か感じたり考えたりすることによって、 作品との間に何らかの関係が作り上げられていきますよね


誰でも、日々いろいろな感情や思考を積み重ねていっているわけですから、 僕自身のそういった積み重ねや試行錯誤と響き合うものを感じていただければとも思います。 そういう意味あいも「Wandering」というタイトルに込めています。


〜ここまでの過程を振り返っての「Wandering」でもあるし、これからもそういうことを積み重ねていく、 その入口としての「Wandering」なのかもしれないですね。


今回ここまでの過程を通じて自分自身の位置を確認できたことによって、 自分でも忘れていることや記憶とイメージのギャップがあったりしますね。 今の自分が見て、描いたときの思考や感情を思い出したり、何かを発見したり。 そういうことはみんなにあることだと思うんです。僕の場合はそれを絵に描いているからそれがヴィジュアルとして形になって残っていて、 その前後の記憶がどんどん引き出されていく。


〜それを自分一人で引き受けて組み立てていくのではなくて、客観的に見てもらいながら組み立てていった。


そのやり取りの過程を見に来ていただく方々にも感じていただきたい。 それが展覧会を開催する意味の一つでもあると思いますし、 作家と展覧会を見ていただくお客さんのやり取りもそういう過程のひとつになっていくのだと思います。


〜ここでそういうことが整理できましたか


いえ、できてない、正確には整理でききっていない・・・と思います。
というか、できてないから次を作ることができるんだと思います。 できてしまったら次にやることがなくなってしまう。できなかったことが残ったり、新たに発見したりするから、 つぎにそのできていないことを解決していく過程が始まるんだと思います。 作り上げた瞬間にはある正解に辿り着いたとは感じますが、次の瞬間にはもっと違うものがあるのではないかと感じる。 そうして次の正解を求めて描く、その繰り返し、いつも「Wandering」の過程の中にあるんだと思います。


〜その5年分を、今回まとめて切って見せてみた。


展覧会というのはいつもそうだと思います。そこまでの過程を切ってみたら、こういうものが詰まってました、と。
それをほどいて、伝わりやすい形にして見てもらう。
そうやって整理したものを、もう一度整理し直すというところからも、新たに作品を作っていく。 僕にとっては今回の展示がそういう取り組み方の初めての体験で、これまで続けてきたことを一度再確認して、 またそれがこれからも続いていくんだろうということを再認識する機会になりました。


〜見る人との関係においても、それが続いていく


例えばモチーフについて言うと、僕の描いているモチーフは実際に見た風景の、 印象が強かったり頭の中に残像のように残っているものを、時に具象的に、時に抽象的に描いているんですが、 見る人にも何かそういう印象や感情が共有できるものになれば嬉しいと思いますね。


〜どういう風に見るかは人それぞれでしょうけれども、そこに見る人なりの記憶や感情と共鳴する何かがある、 対話の可能性を生むものになる、ということでしょうか。


そういうものでありたいとは思っています。 絵に限らず、美術・芸術というのは、見る人の何かのスイッチを押すきっかけになるものだと思います。
どんな記憶や感情が起動するかは人それぞれですが、そのきっかけをより強く、例えば、面白い、美しい、格好いい、
何でもいいから与えられるものを作って、見せる。それが作家としての責任だと思います。
また、美術に限らずどんな表現であっても、それが結果的に人を幸せにするものであるべきだと思っています。
それは単純にきれい、格好いいといった点で娯楽的だというだけではなくて、 もっと深い部分で、その人の記憶や感情と結びついていって、楽しく、幸せになれるものであってほしいと思います。


〜作品に出逢って、そこにある共有できる何かを見出すことによって、見た人が幸せな気持ちになる


これだけ色々刺激的なヴィジュアル体験が氾濫している中で、絵を見てそういう幸せな気持ちになってもらえるなら嬉しいことですし、 その絵画というかたちの中でできることをこれからはもっと考えていかなければいけないんじゃないかと思います。


〜体験の幅も質もどんどん変化していますから、状況がきびしくなっていきそうですね。


いや、だからこそ、絵画だからこそできることがはっきりしてくるんだと思います。
これまでは絵画からその要素や技法など一部分がいろいろな表現やメディア、あるいはデジタル技術などに採用されてきましたが、 それがさらに進んでいくこれから数年、数十年の間には、絵画だからこそ可能なものが見えてくるんじゃないかと感じています。


自分自身の制作活動と併行する形で、ネットワークやデジタル技術が進化してきてそれらに日常的に触れていますので、 そういったヴィジュアル表現の状況と自分自身が絵を描くということとの間にある距離感は、常に意識の中にあると思います。


〜その距離感というものには空間的なものや感覚的なものだけでなく、時間的なものも含まれそうですね。


たしかに、絵を描くという行為はそういう時間に対する感覚を最も確かめやすいものかもしれないですね。
自分自身の記憶という時間的な問題もあるし、絵を描くという行為そのものにも時間が必要ですから。
そういった、作家としての自分が感じている距離感とか、絵を描くという行為がもっている時間や空間に対する感覚の変化も含めて、 これまでの「Wandering」の軌跡を見ていただいて、何か共有できるものを感じ取っていただければと思います。


 

作家に対しては失礼なことかもしれませんが、あえて一言で言わせてもらうなら、とても「楽しい」展覧会です。
その楽しさは、おそらく中島さんがおっしゃるように、心が、描かれているものやその形が物語るものへの想像を、 自分自身の記憶に照らし合わせるときに、楽しい記憶へといざなわれているところから来ているのではないかと感じます。
もちろん、色や形、画面の構成など、技術的な側面からそれを語ることもできるとは思いますが、 ここではそんな無粋なことはせず、心が感じるままにこの楽しさに浸っていたいと、素直に感じることのできる空間です。

中島 麦 展 Wandering~色・時・旅、記憶の記録~
奈義町現代美術館(岡山県勝田郡奈義町豊沢441)
9月1日(土)~ 9月23日(日)※月曜日、祝日の翌日休
時 間 9:30~17:00 (入館16:30まで)
入館料 一般・大学生200円(高校生以下・75歳以上無料)※常設との共通の場合は通常料金700円
問合せ 奈義町現代美術館 ☎ 0868-36-5811

美作人インタビューリンク